設立趣意

 わが国の永い歴史のなかで,独自の文化が大きく花開いたのは,江戸時代です。
 その中で独自の数学すなわち「和算」も大きな発展を遂げ,士農工商という身分に関係なく多くの江戸の人々が学び,レベルを高めていきました。そして世界的に認められた和算家関孝和,建部賢弘,他も輩出しました。明治に入り,政府によって西洋数学に切り替わり,和算は表舞台からは消えました。しかし,和算の魅力を知る人々により守られ,研究者も増えて多くの研究書がまとめられてきました。最近では,テレビ番組に和算が取り上げられたり,大学の入試問題に採用されたりと,温もりのある和算の関心が高まりつつあります。

 しかし,現状では年齢に関係なく数学嫌いが増えています。江戸時代の多くの人たちは算額(自分で考えた数学の問題・答を絵馬にして社寺に奉納したもので,江戸時代の前期に現れ,江戸時代を通して流行していた。現在でも約900面が残っている。)を作り,発表する伝統を持っていました。明治以降,伝統・考え方が失われました。海外では和算の伝統・考え方に注目する動きもありますが,日本では一部研究者周辺を除けば,今のところ和算の普及や魅力を伝える全国規模の機関がなく,将来は明るいとはいえません。

 私たちはできれば,公的に予算を持って数学教育や日常生活のなかで,和算の良いところ,活かせるところを広報したり,和算の研究者に教育の場や講習会で講演等してもらえばと考えます。このように私たちは,平成9年より江戸東京博物館で毎年3月にイベント「和算にまなぶ」を開催し,各層に和算の良さを伝える活動をしております。また,底辺を広げることが大切と考え,主に小学生,中学生,高校生を対象とする「算額をつくろうコンクール」を平成10年より始めています。

 一部教師の間に,授業に和算(とくに算額)の良いところを取り入れる動きが出てはいますが,大学の教職課程では学んでおりませんので,手探りの状態です。現代数学と和算の架け橋となる資料や冊子をつくり,本会の企画するイベントを伝え,参加いただける努力をしたいと思います。また,算額は日本各地の社寺に現存しており,それを地元や他の地域の方に伝えたり,活かした活動をすることで地域の文化・教育の向上に役立ち,その上,江戸の数学を後世に残すことにつながります。

 それを教育や日々の生活,ビジネスに活かすには,分野を越えて関心のある各層の方々に加わって智恵を出していただくのがベストという結論になりました。そこで,積極的に情報公開を行うことにより社会的信用を高めていくには,特定非営利活動法人が最適と考え,ここに特定非営利活動法人和算を普及する会を設立しました。

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